寄贈作品・千秋雅之SS“Revolution” by会員番号061緋色様 2006/09/22

あの男と付き合ってるのは知ってたよ。
父さんは「好きにさせればいい」って言ったけど、だからってさ?

あれでも三善の社長令嬢だろ?
自由すぎないか?

いやな予感はしていたんだ。
家に連れてきて得意のピアノとやらを聴かせてさ、終始ニコニコしてるんだもんな。
一番言って欲しくなかった台詞を一番好きな笑顔で言うなんて・・・


「竹彦、私この人と結婚することにしたの。すごく才能のあるピアニストなのよ?絶対に世界に認められるわ」


爆弾宣言だよ。
千秋雅之?
こいつ本当に売れるのか?
まあ、確かに少しはできるようだけどさ。

音楽に厳しい父さんなら?
ちらりと父さんを見れば厳しい目をしている。

だよね?
反対だよね?
父さん。


「征子がそこまで言うのなら、きっとそうなんだろうな」
「さすが父さん話が早いわ」
「おまえが一度言いだしたこと、もう何を言っても無駄だな」


父さん・・・
ああ、そうだけど・・・


「まあ素敵ですわ、お嬢様」


そんなぁ・・・お手伝いの千代さんまで・・・・・


「竹彦くん?そんな感じでよろしく」
「あ、はい・・・」


伸ばされた手を振り払う勇気なんて僕にはない。
お互い握手をしながらも無言。


なんだこんないい加減そうなヤツ。
どんなに音楽的才能があっても、三善家には釣り合わない。
どうせ、三善のバックアップ目当てだろ!姉さんは騙されてる!


って・・・伝わるだろうか?
この心の声・・・・・・・・

姉さんは、もう一曲弾いてとピアノに座らせようとしている。


サロンコンサート用のピアノ。

あ、この曲知ってるよ。

ショパン エチュード作品10第12番 ハ短調「革命」


どんな選曲なんだよ・・・


*******


「竹彦くんは君のことを大切に思っているんだね」
「あらまあ、シスコンかしら?」
「多少?僕のことを敵と思っているような顔つきだったよ?」
「私の所為で三喜を継がなきゃいけなくなったからかしら?」
「ケツ顎くんは組織の上に立つタイプじゃないかもね」
「ちょっとぉ?なにその『ケツ顎くん』って」


征子はケラケラと笑う。
気になったものは仕方ないだろ?

秀才気取りのボンボンの顔が浮かぶ。
彼には三喜から抜け出す征子が羨ましく思えたんだろうな。
だから、俺を見下そうと必死な態度。


それが逆効果だとも知らないで。

まだガキだから仕方ないか。


しかし、この家は居心地が悪い。
人の暖かみを感じられない。

別に暖かみを求めている訳ではないのだが。


無機質に響くピアノの音を思い出す。
いいピアノなのに・・・



「そろそろ帰るよ」
「そう?待ってて駅まで送らせるわ」


目の前を歩く征子の後姿を見ながら思う。

「送らせる」・・・か。
それは自然だけど不自然な発言だと思う。
そう、生粋のお嬢様の発言。

征子は三善の一族の中では自分は異端だと言っていた。
精一杯普通のフリをしてみせる。


でも----所詮はカゴの中の鳥。


だから、連れ出してあげるよ。

君はわかっているつもりかもしれない。
でも、なにもわかっていないよ。


そう、君のカゴには鍵なんて最初からなかったんだよ。



階段を降りれば先ほどのピアノが淋しそうに佇んでいる。

いつか・・・
いつか暖かい心を持ったピアニストに弾いてもらえるといいな。
そうだ、一人じゃ淋しいからヴァイオリンの音もつけて・・・


*******
*******


「そうか、パリで?」
「真一のコンサートに行くかしら?」
「教えたのか?」
「教えない・・・指揮者ってのは言った気がするけど・・・」


出来れば会わずにすめばと願う。


「真一が三善を継いでいれば会わずに済むのかしらね?」
「そうしたら、あの娘にも会えなかったんじゃないか?」


真一を慕う、ちょっと風変わりな娘の顔を思い出す。
あの娘を見る真一の眼差しを思い出す。

―――そして、あの日に聴いたエルガーのヴァイオリンソナタを思い出す。
それと同時に、あの日に聞いたショパンの革命も思い出す。


『僕は反対だよ』
『でも、お兄さんが欲しかったって言ってたじゃない?』
『いったい幾つのときの話だよ?」


あのとき感じた不安が間違いじゃなかったことは、数年後に離婚という形で現実となった。
でも、その代わりに姉さんは『真一』を手に入れた。
あいつは名声を手に入れた。


「真一は・・・昔の私のようだな」
「雅之さんが許せない?」
「心配じゃないのか?」
「そうね・・・ のだめちゃんに助けてもらえば大丈夫かな?」
「・・・なるほどな」


聞きたかった言葉。
それは、やはり一番好きな笑顔で放たれた。

-------fin-----



これは、以前、そう、千秋パパが登場したときに、「ちあパパ祭」があったら面白いな……と思い、
千秋雅之氏についていろいろ考察していたら、「千秋雅之氏と竹彦叔父さんって……
多分、ソリがあわないだろうなー」「口が悪いから、絶対若かりし竹彦君が気にしているアゴを
“ケツアゴ”とかいってピンポイントでからかいそうだなー」なんて妄想が浮かんできて、
頭の中で4コマ漫画みたいなのが出来たのです。
でも、私にはそれを漫画にする力も、ショートショートにする力もありません。
そんなとき、緋色さんにこの妄想を漏らしたら、さらさらさら〜っとSSにしてくださいました。
それも、切なく、美しい……。萌えですよ、萌え!
私のアホネタがこんな風に大変身するとは……!
あうう、アホなことしか考えつかない己の浅慮さに涙しつつも、素敵なお話が読めて大感激でした。
緋色さん、ありがとうございました。
そして、エイプリルフール企画に掲載のご許可いただき、感謝です! ラーーーブ
管理人・隠居ガニ拝




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